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東京高等裁判所 平成11年(行コ)223号 判決 2000年5月31日

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求める裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2(一)  被控訴人が平成八年八月三〇日付け却下通知書により行った障害年金請求の却下処分を取り消す。

(二)  被控訴人が平成一〇年七月三日付けで行った控訴人の異議申立てを棄却する決定を取り消す。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文第一項同旨

第二事案の概要

事案の概要は、次のとおり付け加えるほかは原判決「事実及び理由」中の「第二事案の概要」記載のとおりであるから、これを引用する。

一  当審における控訴人の主張

1  周東貨物は日本通運株式会社(以下「日本通運」という。)の下請として、光海軍工廠の軍事輸送を担い、控訴人はその業務に従事していた。ところで、日本通運は、昭和二〇年三月一五日軍需充足会社令(昭和二十年勅令第三十六号)によって軍需充足会社に指定されているが、軍需充足会社の営む軍需充足事業に従事する者は、国家総動員法により徴用されたものとみなされる(軍需充足会社令一条、軍需会社法(昭和十八年十月三十一日法律第百八号)六条一項)から、日本通運の下請として軍事輸送業務に従事していた控訴人は、軍需充足会社である日本通運の社員と同様に徴用されたものと扱われるべきである。

2  昭和一八、一九年ころ、輸送機関は国の軍需施設の一つと考えられており、大和運輸株式会社の例を採れば、軍需省監理部特別輸送隊への参加を要請され、昭和二〇年二月には運輸通信大臣から当時の中島飛行機株式会社武蔵野製作所の疎開に伴う物資の輸送に従事するように命ずる輸送命令を受けている。このような命令による事業従事中の事故に関しては、当然援護法の適用があるべきであるが、周東貨物も、右大和運輸株式会社と同様な状況にあったものと考えられる。控訴人において命令書を提出することはできないが、その不利益を控訴人に負わせるべきではない。

二  当審における控訴人の主張に対する被控訴人の反論

1  控訴人が受傷した当時、周東貨物が日本通運の下請であった事実を認めることはできず、控訴人の軍需充足会社令に関する主張はその前提を欠く上、仮に周東貨物と日本通運とが元請・下請の関係にあったとしても、元請会社である日本通運が軍需充足会社の指定を受けたことにより、当然に下請会社である周東貨物についても右指定の効果が及ぶものではない。さらに、控訴人の受傷は昭和一八年一一月五日であるが、日本通運が軍需充足会社の指定を受けたのはそれより後のことであるから、いずれにせよ控訴人を援護法の「準軍属」ということはできない。

2  周東貨物が輸送命令を受けていたことを裏付ける証拠はない。また、そのような命令を受けていたとしても、運輸命令は、自動車交通事業法一六条の六に基づくものであって、国家総動員法四条又は五条の勅令に基づいて発令されたものではない以上、控訴人を援護法の「準軍属」ということはできない。

第三証拠関係

証拠関係は、本件記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。

第四当裁判所の判断

当裁判所も、控訴人の請求はいずれも棄却すべきものであると判断する。その理由は、次のとおり付け加えるほかは原判決「事実及び理由」中の「第三 争点に対する判断」記載のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決書一九頁三行目の次に、次のとおり加える。

「国民徴用令による徴用は、原則として、国民職業能力申告令による要申告者に限り行われ(同令三条一項)、徴用されるべき者に対しては地方長官から出頭命令書が交付された上、これに基づいて出頭した者に対しては、国民徴用官による身体の状態、居住及び就業の場所、職業、技能程度、家庭の状況、希望などの検査又は調査が行われることとされているのであるが(同令七条ノ二、七条ノ三)、本件の証拠を検討しても、控訴人がこのような手続を受けたことを窺わせるものがない。」

二  同二一頁七行目冒頭から九行目「解されるので、」までを次のとおり改める。

「確かに、援護法の趣旨に則れば、国家総動員法四条又は五条の規定に基づく被徴用者に匹敵するような業務を行っていたと認められる者に対しても、同法の援護を及ぼすべきだとの考え方には理解できるものがある。しかし、国家補償の趣旨からどのような者に対してどの範囲で援護を行い、その判定の透明性及び公正を保持するため被援護者に該当する者の要件をどのように規定するかは、立法裁量に属する事柄というべきであり、先に述べたとおり、援護法は、援護の対象となるべき同法一条にいう「軍人軍属等」の範囲を、同法二条に定める「軍人軍属」及び「準軍属」に限っていると解するのが相当である。」

三  当審における控訴人の主張に対する判断

1  控訴人は、軍需充足会社令による指定を受けた日本通運において軍需充足事業に従事する従業員は、国家総動員法により徴用されたものとみなされるから、その下請会社で軍事輸送を担っていた控訴人も同様に扱われるべきである旨主張する。

しかし、甲二六、二七によっても控訴人が受傷した昭和一八年一一月当時周東貨物が日本通運の下請であった事実を認めるに十分でないばかりか、日本通運に対して軍需充足会社としての指定がされたとしても、周東貨物に対して当然に右指定の効力が及ぶものではないから、控訴人の右主張は採用できない。

2  次に、控訴人は、軍需省管理部特別輸送隊への参加を要請され、また輸送命令を受けた大和運輸株式会社の例を挙げて、同社の事業従事中の事故に関しては当然援護法の適用があり、周東貨物も同様の状況にあったとの主張をしている。しかし、周東貨物が大和運輸と同様の輸送命令を受けていたことを示す証拠は存在しないし、仮に周東貨物がそのような命令を受け、控訴人がその命令に基づく業務に従事中に本件事故に遭遇したものだとしても、同命令は、国家総動員法四条又は五条の勅令に基づいて発令されたものではないから、このことをもって控訴人が援護法二条に定める「軍人軍属」又は「準軍属」に該当するということはできない。

なお、控訴人の右主張は、結局のところ、原判決一〇頁で摘示されている「請求者と国との間に『雇用類似の特別な関係』があれば、準軍属に該当すると解すべきである」との主張と同趣旨ではないかと思われるが、この点については既に判断したとおりである。

第五結論

したがって、控訴人の請求をいずれも棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六七条一項本文、六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 新村正人 裁判官 宮岡章 裁判官 田川直之)

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